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浦和地方裁判所 平成5年(行ウ)17号 判決

埼玉県北葛飾郡吉川町吉川一一八番地

原告

株式会社吉川機械

右代表者代表取締役

大澤明

右訴訟代理人弁護士

板垣範之

同県越谷市赤山五-七

被告

越谷税務署長 永田四郎

右指定代理人

矢吹雄太郎

時田敏彦

小川修

小菅修二

萩原一夫

佐野友幸

早川順太郎

野崎宏

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  原告訴訟代理人は「被告が原告に対し平成三年一〇月二五日付けでした平成二年四月一日から同三年三月三一日までの課税期間分の消費税にかかる無申告加算税賦課決定処分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、次のとおり述べた。

1  原告はシール用各種機械の製造販売等を営業目的とする会社であるが、平成二年四月一日から同三年三月三一日までの課税期間分の消費税について課税標準額を一億七二八万八〇〇〇円、納付すべき税額を一二二万四四〇〇円とする納税申告書を、申告期限後の平成三年九月二五日越谷税務署に提出して納税申告をした。

2  これに対して、被告は原告に対し平成三年一〇月二五日付けで税額を一八万三〇〇〇円とする無申告加算税賦課決定処分(以下「本件処分」という。)をした。

3  原告は、これを不服として、平成三年一二月二四日異議の申立てをしたが、同四年三月二三日付けでこれを棄却する決定がされたので、同年四月二一日審査請求をしたが、同五年三月二日付けでこれを棄却する裁決があり、原告に通知された。

4  しかしながら、本件処分は次の理由により違法である。

被告は、越谷税務署管内において、消費税の課税事業者と見込まれる者に対しては、消費税課税事業者届出書の提出について案内文書を送付し、これを提出した者に対しては、消費税確定申告書の用紙、納付書、消費税申告書の書き方についての案内文書を法定の申告期間開始の一か月前に届くよう送付したが、原告に対してはこれらの書類は全く送付されなかった。原告の知る限り、越谷税務署管内、特に、原告の住居地である吉川町において、これらの書類が送付されなかったのは原告のみである。これは、被告の不注意によるとはいえ、原告に対する差別的取扱いであることに変わりはなく、原告が法定の申告期限内に申告をしなかったのはこれがその原因の一つである。原告は、無申告加算税を全く負担しないと言っているのではなく、右のような事情を考慮すれば、原告に対しては国税通則法第六六条第三項を適用し、税率を一〇分の五とすべきであると主張するのである。本件処分においては、税率は同条第一項に則り一〇〇分の一五とされているが、これは租税負担の公平の原則に背理し、違法である。

よって、原告は被告に対し、本件処分の取消しを求める。

二  被告指定代理人は主文と同旨の判決を求め、答弁として、次のとおり述べた。

1  請求原因1から3までの各事実は認める。

2  同4の事実のうち、被告が原告に対しその主張の書類を送付しなかったことは認めるが、その余の主張は争う。

申告納税制度のもとにおいては、元来、税の確定申告は、納税者自身の判断と責任において法定の期間内に行うべきものであることは当然のことである。被告が越谷税務署管内において消費税の課税事業者と見込まれる者に対して消費税確定申告書の用紙等を送付したのは、法令の規定に基づく義務としてではなく、納税者に対する事実上のサービスとして行ったにすぎない。右消費税確定申告書の用紙等の送付は、越谷税務署にとっては、消費税法施行後はじめてのことであり、送付対象となる事業者が多数多岐にわたっているため、現実には原告にみられるように送付もれが生じたことは否定しないが、そのことのゆえに、原告の申告が期限後となったことにつき正当な理由があるとはいえない。

理由

一  請求原因1から3までの各事実、及び同4の事実のうち、被告が、消費税法施行後最初の申告期間の開始に先立ち、越谷税務署管内の消費税の課税事業者と見込まれる者に対し消費税申告書の用紙等を送付したのに、原告に対しては送付されなかったことは当事者間に争いがない。

二  消費税法は昭和六三年一二月三〇日法律第一〇八号により同日施行された新たな法律であり、同法は、国内において課税資産の譲渡等を行った事業者を納税義務者とし(同法第五条第一項)、消費税課税事業者届出書の提出及び消費税の確定申告について、事業者の、課税期間の基準期間における課税売上高が三〇〇〇万円を超えることとなった場合には、当該事業者は、納税地を所轄する税務署長に対し速やかに消費税事業者届出書を提出しなければならないこと(第五七条第一項)、事業者(同法第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)は、課税期間ごとに、当該課税期間の末日の翌日から二か月以内に、税務署長に対し消費税確定申告書を提出しなければならないこと(同法第四五条第一項)を規定している。これによれば、事業者は、消費税法上、当該課税期間にかかる消費税については、納税地を所轄する税務署長からの通知、案内等の有無にかかわりなく、法定の期間内に確定申告書を提出することを義務付けられているのであり、被告が越谷税務署管内において消費税の課税事業者と見込まれる者に対し消費税確定申告書の用紙等を送付したのは、被告が、消費税の適正な申告及び納付を促進するため納税者サービスの一環として事実上行ったものであって、消費税法その他の関係法令上の義務としてしたわけではないのであるから、たまたま、何らかの事情で原告に対する送付がもれたからといって、原告の申告が期限後となったことについて正当の理由があるということはできない。

原告は、原告の申告が期限後となったことについては、被告からの消費税確定申告書の用紙等の送付がなかったことがその一因であることを理由に、無申告加算税については国税通則法第六六条第三項に則り一〇〇分の五の税率が適用されるべきであると主張するが、そのためには同条項所定の申告に基づくことが必要であって、当然に同条項の税率が適用されるわけではないから右主張は失当である。

三  よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大塚一郎 裁判官 中野智明 裁判官 中川正充)

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